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艦隊のアイドル 【艦これSS】  

ガンダムXの記事が好評をいただき、形にして残す大事さを実感しています。
また、いつも応援くださっている皆様に、この場を借りて改めて御礼申し上げます。

さて、今日は艦隊これくしょんのSSです。
Pixivに投下したものです。


おや。こんなところにお客さんかい?
その恰好、君たちは初等部だね?
なになに?那珂ちゃんのことを知りたい?

二人いる?ニセモノなんじゃないか?


…そうか…

もう、そんなに時間が経ったんだね。


おや。こんなところにお客さんかい?
その恰好、君たちは初等部だね?
なになに?那珂ちゃんのことを知りたい?

二人いる?ニセモノなんじゃないか?


…そうか…

もう、そんなに時間が経ったんだね。




           艦隊のアイドル




どっちも、那珂ちゃんだよ。
この黒髪メガネのロングスカートの子も、学園のPVで使われている彼女も。
ううん。普段はメガネの物静かな女の子だったんだ。霧島さん…と言ってもわからないか。
ほら、漫画でよくいるだろう?メガネの真面目な、いかにも文学少女!ってかんじの女の子。

那珂ちゃんも、そんな感じだったんだよ。
絵に描いたような真面目ちゃん。
休み時間には本を読んでいて、体育はちょっと苦手、下を向いていることが多かったかな?

いじめられてはなかったよ?那珂ちゃんがインドア系だっただけさ。


…うん、そうだね。もちろん。
那珂ちゃんは、いつもはこんな子じゃなかった。
僕たちがこの姿を残しておきたいから、こうなってるんだ。

少し、長い話になるよ?





…そうだね、もう6年前かな。

突然、提督がやる気をなくしてしまったんだ。
覚えてるかな?艦霊が大量に出てきて事件になったときがあったろう?
ここも、出るたびにみんなが怪我をして戻ってくるようになった。

ひどいものさ。
保健室や寮では収まりきらなくなって、旧校舎も、体育館も怪我人で溢れたんだ。
僕らも頑張って治療に当たったり、ご飯を炊いたりしてたんだけど、どうにもならなくなった。

みんなぼろぼろのまま出撃して、誰かに肩を貸して戻ってくる。そんな日がずっと続いたんだ。


隣の町が壊滅したとか、買い物に行った子が神隠しにあったとか、
イヤな噂がたくさん流れて、もう、この世の終わりなんじゃないかって思ったんだよ。
艦霊が海の底からあふれて、僕らをみんな食い殺して、地上を滅ぼしてしまう、なんてことがまことしやかに言われていたんだ。

君たちも…やっぱり?疎開していたころだよね?

あのころ、もう僕らのパトロールもどうしようもなくなっていたんだ。
提督はふさぎがちになった。

部屋にこもることが多くなって、最後は…そう、大雪の日だった。


主力艦隊を「逃がす」と称して遠くの海域に出して、提督はログアウトしちゃったんだ。







提督のログアウト、経験あるかい?
ほっとくと、どんどん眠くなって仕方がないんだ。
心を強く持っていても、体が何倍にも重くなって、ほとんど動けなくなる。

僕らはパニックになって、とにかく体を引きずって、参謀室に集まったんだ。
で、見ちゃったんだよ。
参謀室は外が見えるように作られてるでしょ?海、見えるよね?


海を埋め尽くすように、艦霊がひしめいていたんだ。
見たことあるかい?あの緑やら赤やら黄色の目が、ギラギラって、無数に光ってるんだ。
ゾッとするくらいにきれいで、僕らはみんな呆気にとられていた。

でね。
もうみんなも演習経験あるよね?
彼ら、ほら、体をフラフラ動かすだろう?
艦霊の群れが、みんなでゆらゆらうごめいていて、目の前いっぱいのギラギラとゆらゆらに、僕らはもう、呑まれちゃったんだ。

あーここで死ぬんだなーって思ったよ。
だって、もう、どうしようもなかったもの。

主力艦隊はいない。いても、あんなのには勝てっこない。
まして、ここには幼年部と家政部の子たちしかいない。

みんな、頭がパニックになったんだと思う。
ドサッって音がして、一人が崩れるように倒れたんだ。そう、ちょうどその椅子のあたりかな。

それを境に、皆、バタバタと倒れていった。緊張の糸が切れたんだろうね。
そうじゃなくても、疲労もたまっていたしね。
みんな、もう限界だったんだ。


だから、そこで何が起きたのか、僕は見ていないんだ。


でも、あの声だけは覚えている。

「艦隊のアイドル、那珂ちゃんだよーーー!!!!」

あの力強い声は、あの場にいた人なら、死ぬまで忘れないんじゃないかな。







鎮守府がどうなったかって?艦霊は?
おちついて。今話すから。

まず、僕らは全員奇跡的に助かったんだ。
目が覚めたときは、全部が終わっていた。

警察と救急隊がきて、鎮守府は2週間閉鎖になったんだ。
入院した子も多かった。僕も何日か寝かされたよ。


聞いた話だと、みんなが倒れたとき、参謀室にいなかった子たちがいたんだ。
それが那珂、舞風、時雨の3人。那珂ちゃんだけが中等部で、ほかの二人は君たちくらいの年だったね。
え、想像できない?ははは。本当だよ。あの子たちもずいぶんやんちゃだったんだよ?

そんなことない?頼りになる?

…そうだろうね。
あの時、僕らを助けてくれたのはこの3人だもの。
舞風ちゃんと時雨ちゃんが、遠征に行ってた主力艦隊を呼び戻してきてくれたんだ。

大変だったらしいよ。多くの艦霊に追いかけられて、時雨ちゃんが転んじゃったんだ。
だから途中で舞風ちゃんが時雨ちゃんを負ぶって逃げて―
そう、火事場の馬鹿力、ってやつだね。信じられないくらいに速かったらしい。
相手の飛行機も魚雷も全部かわして、大きく引き離したらしいからね。

最後に別の群れにつかまっちゃったんだけど、そこで反転してきた主力艦隊が間に合ったのさ。


主力艦隊、なんで動けたか、って?
うん、良い質問だね。


奇跡が起きたんだよ。提督が戻ってきたんだ。
提督はもう艦これが怖くなって、データを消そうとしていたらしい。
でも、那珂ちゃんの声が聴こえて、恐る恐るインだけしたらしいんだ。

そうだよ。
艦これを立ち上げてもないのに、那珂ちゃんの声がはっきり聞こえたんだって。
ありえないよね。…でも、僕は信じるよ。
提督も、僕らと同じように、あの那珂ちゃんの声を聞いたのだと思う。


ともかく、提督はログインして、僕らとの接触回線を開いてくれたんだ。
だから、みんなギリギリのところでちょっとだけ動くことができるようになった。



那珂ちゃん?
そう、もちろん。これから話すよ。

救出作戦を考え付いたのは、彼女だったんだ。
3人の中では彼女が一番の年長だったからね。責任を感じたのかもしれない。

時雨ちゃんと舞風ちゃんが助けを呼びに行く間、彼女はオトリになって艦霊の群れをひきつけようとしたんだ。
PVの格好はその時のモノさ。スカートを短くして、髪を束ねてね。
足は速かったからね。ロケット花火とかドラム缶とかを持ち出して、鎮守府の外で大声を張り上げたんだ。

「艦隊のアイドル!那珂ちゃんだよーーーーー!!」って。

笑っちゃうよね。もう必死だったんだろうけど。何がアイドルだよ、と。自分にちゃんつけるなよ、と。
しかも、あのいでたちだよ?ラーメン屋の看板娘修行中!みたいなあの恰好でさ。

…もちろん、今だから笑えるんだけど。

先輩に倣って、彼女は名乗りを上げていたんだ。
艦霊たちの注意をひきつけるために。
彼らに、空母や戦艦がいると思わせるために。


裏山の方に走りながら、音や火、最後は石まで投げて、とにかく、鎮守府の周りにいた艦霊はほとんど全部、那珂ちゃんを追いかけていったんだ。

数百人の艦霊がね、そう、黄色い空母もいたかな。
みんなゾロゾロ、那珂ちゃんの方に向かっていった。彼女が捕まるのは、時間の問題だった。
でも、那珂ちゃんはあり得ないくらい長い時間、裏山を逃げ回って艦霊をひきつけていたんだ。






それからは、もう笑い話さ。
提督が、ギリギリのところで踏ん張ってくれたんだ。
元気なみんなを集めて、その場で土下座をしたらしい。
「俺が間違ってた。もう二度とみんなを見捨てない」って。
僕らも、後で謝られたよ。


提督は本気だった。
ありったけのお金をつぎ込んで、工廠をフル稼働させたんだ。
運もよかった。大和さんと武蔵さんいるでしょ?
あの二人、「絶対ありえない」タイミングなのになぜか通りかかって、ウチを助けてくれることになったんだ。
まだあるんだよ。遠征に出てた別のチームが、迷子になっていた赤城さんのチームを発見したんだ。

赤城さんはいつものように空腹だったんだけど、提督がお金惜しまなかったからねぇ。
夜のうちに戦えるメンバー全員の治療が終わって、腹ごしらえもできたんだ。

なにより、そのときのみんなは、気持ちがひとつだったんだ。

日の出前に押し出して、あとは早かったよ。艦霊をコテンパンに叩きのめした。
昼前にはもうあらかた片がついて、海も、あの白い環礁も、静けさを取り戻していたんだ。

…でも
那珂ちゃんは、すぐには見つからなかった。






那珂ちゃんが見つかったのは、翌日の朝だった。
裏山の一番奥、最後の掃討が終わった後、もっと奥まで行ったら、いたよ。

ボロボロの姿で震えていた。
見つけたのが最上さんだったかな?
もっと早く出て来いよ、って笑いながら言ったら、
「行けるわけないじゃないですか!怖いです無理です!」って泣き出したらしいよ。

なんでも、たまに写真を撮りに来る裏山には土地勘があったから、敵をひきつけながら山の中を逃げてればどうにかなるかも、って思ったらしい。
捕まったらどうするつもりだったんだよ!って誰かが聞いたら、
「ええー考えてませんでした!」ってガクガク震えだしたとか。

しっかりしてるんだか、おっちょこちょいなんだか、よくわからないよね。

みんなにおなじみのあのスタイルは、逃げ回ったその時だけ。
すぐに、普段のロングスカートでメガネの那珂ちゃんに戻っちゃったよ。
あの恰好をまた見たがる声はあったんだけど、いつも「恥ずかしいです!」って、絶対にやってくれなかった。

3月の、この一回以外はね。
そう、みんながよく知ってるあのPVだよ。

卒業式、と言っても、彼女の先輩の卒業式だったんだけど、
みんなで、お願いをしたんだ。提督が先頭に立って頭を下げてね。

あの時の那珂ちゃんが、艦隊全員に勇気をくれたから。


まさしく艦隊のアイドルだよ、って言われて、那珂ちゃん照れてたけど、
「そういうことなら…」って、快く引き受けてくれたんだ。


鎮守府最大のピンチの功労者だから、僕らは那珂ちゃんをあのときの姿で残すことにしたんだ。、
どんなときも、勇気と誇りを忘れないために。

だから彼女が「艦隊のアイドル」を名乗ってて、あの姿でいるんだよ。
もちろん、PVでは大分毛色が変わっちゃったけどね。あれじゃあ、本当に駆け出しのアイドルだよね。
本人も最初は相当恥ずかしがってて動きがぎこちなかったのに、途中からはノリノリになってね、面白かったよ。

でも。
熱演する姿は、やっぱり那珂ちゃんだったよ。
いっぱい走り回って、明るさを振りまく彼女を見て、僕は改めて思ったものだよ。

僕たちを助けてくれたのは、この那珂ちゃんのひたむきさだったんだ、って。



今の那珂ちゃん?イギリスの…ポーツマスだったかな?の大学で研究をしているよ。
たまに手紙が来るね。元気でやってるみたいだよ。いつも地味スタイルだけどね。
「青春は鎮守府においてきました」だってさ。
ね。もったいないよね。あれはあれでかわいいのに。


さあ、昔話はこれで終わりだ。気は済んだかい?
そうかい。それはよかった。
人に歴史あり。鎮守府のことが知りたくなったら、また訪ねてくるといい。


この資料室は、いつでも待っているから。

(了)






【あとがき】

「鎮守府最大のピンチ」の日は1944年の2月17日、トラック島の大空襲がモデルです。

トラック島大空襲は、アメリカをして「真珠湾の復讐成れり」と言わしめた攻撃です。
日本軍の南太平洋での活動の拠点になっていたトラック島に、米軍機動部隊が大々的な攻撃をかけました。
飛び石作戦の準備攻撃です。

戦力が整っていなかった日本軍は、武蔵以下の主力艦隊を北に逃がします。
遺された補助艦艇や航空機は逃げることもかなわず、全滅に近い大打撃を受けました。

この時トラック島に近づいていた陸軍の増援部隊も、8割を失う打撃を受けます。
私の祖父はこの増援部隊の一員で、この空襲で輸送船が撃沈され、藤波という駆逐艦に救助されました。
以後終戦までを、祖父は「戦車のない戦車乗り」として過ごすことになります。

那珂、時雨、舞風の3隻は、いずれもこの戦いで散華しました。
救いも何もなく殺されていっています。

空母赤城以下、強かった頃の機動部隊は2年前のミッドウェイで壊滅しています。
いち早くトラック環礁を脱出していた、武蔵以下の主力艦隊が戻ってきた事実も、ありません。
一兵の味方も希望も見出せなかった水平線が、歴史上で日本軍が辿った運命です。
那珂はいまも、多くの遺骨を抱えたまま白い環礁に眠っているはずです。


「那珂がオトリになって敵の攻撃をひきつけた」という事実も、私は見出せませんでした。
でも、那珂が沈んだ日が自分の誕生日と同日であることもあり、私は彼女が祖父の身代わりになって死んでいったように思ってしまうことがあります。

祖父の青春があった時代に生きた人たちのことを考えながら、思いを形にしました。
フィクションの中くらい、ハッピーエンドでもいいじゃない。


最後までお付き合い、ありがとうございました。







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